フミエちゃんが朝のラーガになったので、僕が代わりに午後のラーガをやることに。以前だったら得意なMadhuvantiをやるところだけど、地震以来どうもMadhu(蜜)な気分になれず、むしろしっくりくるのは1音違いのPatdeep。弱まりゆく光。そう、無理矢理元気を出す必要はない。疲れた時は疲れていればいい。きっとこれが今の自分に、そして自分を取り巻く状況に相応しいラーガなのだろう。 Patdeepは今までどちらかというと苦手な、掴みにくいラーガだった。掴みにくいついでにdrut gatもいつものtintal(早16拍子)ではなく、ektal(早12拍子)にセット。せっかくしっかり練習できる機会なのだから苦手なことにチャレンジしてみようと思った。得意なことばかりやっていたのではいつまでも先へ進めない。これは競技かるたから学んだこと。攻めていればこそ守ることもできる。守りに入っていたら攻めることはできない。僕はやはり攻めがるたで行こう。これからも。そう思った。 <第2部> 3. Raga Charukeshi : alap, gat in vilambit & drut tintal Steve Oda(sarod) Ty Burhoe(tabla) 山口英里、北見智美(tanpura)
4. Raga Chandrakaushiki : alap, gat in maddhya & drut tintal Amit Roy(sitar) U-zhaan(tabla) 北見智美(tanpura) 5. Bhairavi - Laaga Chunri Mein Daag Amit Roy(sitar) U-zhaan(tabla) 寺原太郎(bansuri) 北見智美(tanpura)
Steve & Ty photo by Akira Iou
Amit Roy & U-zhaan photo by Akira Iou
スティーブジーとバッチューダ(Amit Roy)の演奏に関して、もはや言うべきことは何もない。 その音の豊潤さ。圧倒的なラーガ感。官能と崇高さ。限りなく自由で自在。どう書いてみてもあの演奏を形容しきれるものではない。 Ud. Ali Akbar Khan と Pt. Nikhil Banerjee、2人の偉大な音楽家の遺伝子が、たしかにここに引き継がれて存在している、そのことだけでもう充分だ。 本物とはかくも巨大で圧倒的なものか。おそらく会場にいたすべての人がそう感じていたことと思う。 この人たちと同じ場所にいることができて、本当に幸せだと思った。 垣間見えたその道の果てしなさに絶望しつつ、同時に恍惚の極みに打ち震える。インド音楽はこんなにも凄い音楽で、僕の先生はこんなにも凄い人たちだった。あーまだまだだ。20年なんてほんの入り口だ。全然だ。もっともっと、ずっとずっと遠くまで道は続いている。命のある限りどこまでも行こう。半ば遠のきつつある意識の片隅で、再び誓いを新たにするのだった。